ホルストを子どもにどう聴かせるか —「惑星」と作曲家の素顔
ホルストの組曲「惑星」を子どもとどう聴くか。7つの惑星をそれぞれ別の性格で描いた約50〜55分の大作で、火星の重厚な行進から木星の晴れやかな賑わいまで景色が変わります。聴きどころと作曲家の素顔をまとめます。
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運動会や映画の予告編、テレビ番組のBGMで流れる「あの壮大な曲」——多くの場合それはグスタフ・ホルスト(1874–1934)の組曲「惑星」から来ています。特に「木星」の中間部の雄大なメロディは、日本では「I vow to thee, my country(我が祖国に誓う)」という讃美歌の旋律としても知られています。
ところが「ホルスト」という名前は、意外なほど知られていません。生涯でただ一つの大ヒット作に見え隠れしながらも、地道に作曲と教育に向き合い続けた作曲家の素顔を、「惑星」の聴きどころとあわせて紹介します。
ホルストってどんな作曲家?
グスタフ・ホルストは1874年9月21日、イングランド南西部のチェルトナムに生まれました。曽祖父の代にイギリスへ渡ったスウェーデン系の家系ですが、生まれも育ちもイギリスです。音楽一家に育ち、幼いころからピアノとヴァイオリンを習いました。
1893年にロンドンの王立音楽大学(RCM)に入学し、作曲とトロンボーンを学びます。演奏家としてもトロンボーン奏者としてしばらく活動しますが、右手の神経炎(腱鞘炎に近い症状)が続いたため、次第に演奏の場を離れ作曲と教育に専念していきます。
1905年からロンドンのセント・ポール女子学校で音楽教師を務め、亡くなる直前まで指導を続けました。「お金より音楽」を地で行く生き方で、収入は多くありませんでしたが、学校や地域の合唱団・アマチュアオーケストラを大切にした生涯でした。
1934年5月25日、ロンドンにて59歳で死去。遺灰は、彼が敬愛した作曲家ウィールクスの記念碑のそばに、チチェスター大聖堂に埋葬されました。
ホルストは「惑星」以外にも、民謡や古代インド文学に材をとった作品など多彩な創作を行いましたが、本人は「惑星だけが注目される」ことをあまり喜ばなかったといいます。
「惑星」全7曲の聴きどころ
組曲「惑星」は1914〜1916年にかけて作曲されました(作品番号32)。ここで描かれるのは天文学的な惑星ではなく、西洋占星術における各惑星の性格・象徴です。そのため、地球は(占星術上の「惑星」ではないため)含まれていません。
初演は1918年9月29日にロンドンのクイーンズ・ホールで私的演奏会として行われ、指揮はエイドリアン・ボールトが担当。一般公開の初演は1919年2月27日(5曲のみ)で、全曲が初めて公開演奏されたのは1920年11月15日のことでした。
第1曲:火星(戦争の神)
5拍子という変則的なリズムで刻まれる重々しい行進曲。弦楽器・金管楽器・打楽器が轟く圧倒的な音量で進み、頂点で全合奏が爆発します。1914〜1916年の作曲時期が第一次世界大戦と重なることもあり、戦争の恐怖と冷酷さを描いた音楽として語られます。子どもには「かみなりのような大きな音が来るよ」と予告してから聴かせると驚きより楽しみになります。
第2曲:金星(平和の神)
火星の直後に現れるやわらかで静謐な音楽。ホルンとフルートが清澄な旋律を歌い、オーボエがそれに応えます。火星との対比が鮮やかで、「こんなに違う曲がひとつの組曲に入っているんだ」と気づく体験は子どもに印象的に残ります。
第3曲:水星(翼のある使者)
忙しなく動き回る小さな妖精のような音楽。弦楽器とフルートが軽やかに絡まりあい、短い動機が次々に変化します。「水星が太陽のまわりをぐるぐる飛び回っているイメージ」と話すと、子どもが動きで理解しやすくなります。
第4曲:木星(歓喜の神)
組曲の中でもっとも人気の高い楽章。活気あふれる序奏の後、荘厳な中間主題が現れます。この旋律は後に讃美歌「I Vow to Thee, My Country(我が祖国に誓う)」に使われ、日本でも多くの人に親しまれています(1921年にホルスト自身が既存の詩に合わせて編曲したもので、旋律名「サクステッド(Thaxted)」は彼が暮らした村にちなみます)。「どこかで聴いたことある」と感じる子どもも多く、家族の会話のきっかけになりやすい曲です。
第5曲:土星(老齢の神)
低音楽器がゆっくりと刻む歩みで始まり、時の重さや人生の終わりを思わせる音楽。ホルスト自身が最も気に入っていた楽章と伝えられます。子どもには少し難しく感じることもありますが、年齢が上がるにつれて「味わい深い」と感じるようになる曲です。
第6曲:天王星(魔術師)
金管楽器の4つの音の呼びかけで始まり、ファゴットがユーモラスに動き出す奇妙な音楽。「魔法使いが杖を振っているよ」というイメージが伝わりやすく、子どもが興味を持ちやすい楽章のひとつです。
第7曲:海王星(神秘主義者)
組曲の最後は、霧の中に消えていくような幻想的な音楽。オーケストラが静まると、舞台裏に隠れた女声合唱(歌詞なし)がかすかに聞こえてきます。やがてその声も消え、静寂の中で曲が終わります。「音が消えていくのかな、消えないのかな」とじっと聴き入る集中体験は、子どもに「クラシックって不思議」という印象を残します。
なぜ「地球」と「冥王星」がないの?
親子で聴いていると「地球はないの?」という疑問が自然に生まれます。ホルストが「惑星」を書いたのは西洋占星術における惑星の象徴をテーマにしたためで、地球は「観察する側」として占星術には登場しません。
冥王星については、ホルストが作曲した当時(1914〜1916年)はまだ発見されていませんでした(冥王星の発見は1930年)。のちにホルスト自身は「冥王星の楽章を追加することは考えていない」と述べ、7曲で完成した作品として扱いました。
おすすめの聴かせ方
何歳から
- 3〜5歳:「木星」の中間主題だけをBGMとして流す。雄大な旋律が自然に耳に入ります。
- 6〜8歳:「火星→金星」の2曲を連続で聴き、「どっちが好き?」と比べてみる。
- 9歳以降:全7曲通しで鑑賞。各惑星のキャラクターを「一言で表すとしたら?」と話し合うと、感想の言語化の練習にもなります。
「惑星」を宇宙の話題と結びつける
天文学の本や図鑑で惑星の名前を確認しながら聴くと、理科・音楽・歴史が一度に広がります。「この惑星の音楽、何に聞こえる?」という問いかけは、想像力を使う楽しい会話になります。
関連リンク
- 「惑星」と並んでよく演奏されるイギリス音楽として エルガー の記事もおすすめです。
- 大きな音が聴ける子ども向け管弦楽コンサートは /events で「ファミリー」「クラシック」のタグから探せます。
- 指揮者や管弦楽団の情報は /performers からどうぞ。
よくある質問
Q. 「惑星」はどれくらいの長さですか? A. 全7曲で約50〜55分です。コンサートでは休憩なしに演奏されることが多く、子どもと聴く場合は「木星だけ」「火星と木星だけ」など部分的に始めるのが無理のない入り方です。
Q. 「木星」の中間部の旋律はどこかで聴いたことがある気がしますが? A. 日本でも讃美歌「I Vow to Thee, My Country」(我が祖国に誓う)の旋律として知られています。卒業式や学校行事でかかることもあります。1921年にホルスト自身が、セシル・スプリング=ライスの詩に合わせてこの中間主題を讃美歌用に編曲したものです。
Q. 「惑星」を演奏するのにどれくらい大きなオーケストラが必要ですか? A. 大編成のオーケストラが必要で、木管・金管・弦・打楽器に加え、オルガンや2台のハープ、女声合唱(第7曲)まで使います。コンサートで全曲演奏するには100人規模の団体が必要なため、子ども向けの縮小版公演では抜粋で演奏されることもあります。
Q. ホルストは他にどんな曲を書きましたか? A. セント・ポール女子学校のための「セント・ポール組曲」(弦楽合奏)や、室内オペラ「サヴィトリ」(1908年)などがあります。いずれも「惑星」ほどの知名度はありませんが、親しみやすい作品です。
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